2024年1月6日
株式会社 浜野製作所
取締役社長 小林亮
年頭にあたり謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
昨年10月に会長・浜野から社長のバトンを受け継ぎ、「Re ニュー浜野製作所 -ソフトOSのアップデート-」というスローガンの下、事業構造の変革に対応すべく組織・オペレーションの改革を進めてまいりました。昨年は未開の領域に挑む開発業務や想定外の事態への対応に終始し、なかなか落ち着いて組織の内側に目を向ける余裕がありませんでしたが、2025年は引き続き、限界突破しつつも、経営基盤をより強固にしていく一年としたいと思います。
さて、改めて新年を迎えるにあたり、以下の3つの所感を申し上げたいと存じます。
1. 最悪に備える
私は毎年末、「総予測」と題する週刊誌の特集号を購読し、一年の振り返りと来年への妄想を膨らませることを習慣としております。この定点観測から見えてくるのは、確実に起こることと、予測が困難なことの二極化です。2025年に目を向けますと、団塊世代の後期高齢化、米国の新政権発足、大阪・関西万博の開催など、確定された事象がある一方で、株価や為替といった経済の予測は、経済や金融のプロでさえも外すことが多く、参考として確認する程度が適切かもしれません。
我々中小企業にとって重要なのは、「最悪に備える」という姿勢です。例えば、現在の米国株式市場への集中度からバブル崩壊や世界同時株安、リーマンショック級の景気後退といったワーストケースも想定しておく必要があります。中小企業は想定外の非常事態に耐えうるバッファが限られているからこそ、平時からの余剰資金確保や事業ポートフォリオの分散が不可欠です。それでも突然のパンデミックや地政学的リスクの変化はほとんど予期できないわけですから、有事の際に、臨機応変に対応できる機動力を備えておくことも肝要です。
2. 最適化社会から自律社会へ
オムロンの創業者・立石一真氏が1970年に提唱したSINIC理論によれば、2025年は最適化社会から自律社会への転換点とされています。最適化社会では、Amazonのレコメンドやマッチングアプリに代表されるように、ビッグデータとAIによる効率的な情報処理とフィードバックが特徴でした。しかし、野球のイチロー氏が年末のテレビ番組で指摘していたように、メジャーリーグでもデータ偏重により人間本来の「感性」が失われつつあることも事実のようです。
来たる自律社会では、フィジカルな情報・データが精神生体技術によってよりパーソナライズされ、人間のエンパワーメントが進むと考えられます。同時に、生成AIを核とした産業の高度自働化も加速するでしょう。
人間の感性を保ったまま自律社会を生き抜く上で、映画『燃えよドラゴン』のブルースリーの台詞は非常に示唆に富んでいます。「Don’t think. Feel.(考えるな。感じろ。)」はあまりにも有名ですが、実はその後に「It’s like a finger pointing at the moon. Do not concentrate on the finger or you will miss all of the heavenly glory.(これは月をさす指と似ている。指に気を取られているとより大きな栄光(月)を見失うぞ。」と続きます。拡大解釈して人間の自律をさらに深読みすると、逆説的かもしれないですが、自律とは個に囚われ過ぎることなく、家族や仲間、そして社会全体というより大きな価値の創造に向かって進むことではないでしょうか。我々中小企業は、個が集まってチーム・組織になる社会の最小ユニットとして、独自の感性と創造性を発揮できる大きな可能性を秘めていると感じています。
3. 乙巳の変
2025年は乙巳(きのとみ)の年であり、645年の大化の改新を想起させます。この墨田・城東地域を見渡せば、真摯にものづくりに取り組む工場群が、この20年で半減し、その跡地は住宅地へと変貌を遂げています。これは時代の趨勢であり、資本主義の根本原理なのかもしれません。しかし、私が実際に見聞きしてきた町工場には、確かな技術力とものづくりの真心、そして何物にも代え難い人間の感性が息づいています。
我々は、ものづくりの上流工程へと活路を見出してきましたが、これだけでは全く不十分です。この国のものづくりの灯を絶やさないために、より大きなうねり、ムーブメントを起こさねばなりません。まずは自社の足場を固め、新たな未来を具体的な形として創造すること。さらに、自社だけでできなければ、できる強みを持った人・組織と協力連携し、町工場のモノづくりを価値ある創造業としてアップデートさせていく必要があります。
時代の大きな変化の中では、悪足掻きに過ぎないかもしれませんが、我々がこの東京の地に工場を構え、新たなグローカルモデルを示すことで、この周辺地域はじめ、日本、世界全体がより善い社会へと進化していくことを願ってやみません。2025年、大化の改新から1380年、昭和100年の終わり、戦後80年の節目として、閉塞した時代観をぶち壊すスタートにしましょう。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。